井原研究室の研究内容

都市気候と人間健康

研究の背景

地球温暖化やヒートアイランド現象により、都市の気温は急速に上昇しています。これに伴い、熱中症の増加が懸念されています。

ライフサイクル的思考の導入

● 一側面だけ取り上げると、、、

熱中症は問題だ。まず夏季昼間の気温を下げるべき!

● ライフサイクル的思考に基づくと、、、

都市気温の上昇は、熱中症から疲労、睡眠障害といった幅広い健康影響を引き起こしている。また、実際には、気温のみならず、湿度、日射、ビルからの輻射熱といった要素も人間健康に大きな影響を与えている。一方、気温を低下する対策は、対策によって昼夜別・季節別の気温低下量は異なるため、緩和する健康影響の種類も異なってくる。そこで、都市気候と人間健康の関係を総合的に把握して、真に人間健康への影響を抑制する対策を導入するのが良い。

さらにはエネルギー需要や他の分野への影響も把握して、社会的に望ましい対策の導入設計がなされると良い。

研究の内容

気象要素と睡眠障害や疲労の関係解析

熱中症と異なり、睡眠障害や疲労には公的な統計が存在しません。そこで、医者の診断と対応可能な自記式質問票を開発し、それを用いて社会調査を実施することで、睡眠障害や疲労の実態の把握を進めています。これと気象データの関係を解析することにより、気象要素と睡眠障害や疲労の関係を解明することを目指しています。

人体周辺温熱環境の計測

人間健康と関係する気象要素は温熱4要素と呼ばれ、気温のほか、湿度、風速、放射(日射や地面/ビル壁からの輻射熱)も人間健康に大きな影響を与えます。また、言うまでもなく、人間は屋内外を出入りしていますが、これは気象台では観測することができません。そこで、温熱4要素を計測できる携帯型温熱環境測器を開発、これを被験者に装着してもらうことで、実際に人間が暴露されている温熱環境の把握を目指しています。

研究プロジェクト

進行中

● 環境省・環境研究総合推進費・戦略的研究開発領域S-14「緩和・適応統合実施による都市健康影響評価と費用便益分析」(S-14-4(3))(研究代表者: 井原智彦・東京大学准教授)

インドネシア・ジャカルタを対象として、都市街区の構造や住民の健康の実態を調査し、地球温暖化が都市住民の健康に与える影響を評価します。また、緩和策や適応策のコストや導入した場合の被害の軽減量を解析して費用便益分析をおこなうことにより、最善の緩和策・適応策の導入形態を見いだします。

● 科学研究費補助金・基盤研究(B)「脳波と脳内血流量の同時計測に基づくエネルギー施策における個人の異質性の解明」(26289370)(研究代表者: 吉田好邦・東京大学教授)

脳波や脳内血流量を計測することによって、従来、主観的申告でしか計測できなかった温冷感や快適感の客観的評価を試みます。また、空調制御や熱中症予防にも応用していく予定です。

● 科学研究費補助金・基盤研究(B)「多様な人びとの健康に配慮したまちづくりのための熱環境の人体影響評価と改善提案」(15H04066)(研究代表者: 花木啓祐・東京大学教授)

さまざまな属性の人々が、どのような条件下で熱中症に至るか、突き止めます。その上で、熱中症を防ぐための都市計画を考案します。

終了

● 文部科学省・気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)「フィードバックパラメタリゼーションを用いた詳細なダウンスケールモデルの開発と都市暑熱環境・集中豪雨適応策への応用」(研究代表者: 飯塚悟・名古屋大学准教授)

名古屋を対象として、将来の地球温暖化が都市気候に与える影響を全球スケールから都市街区スケールまで予測しました。また、名古屋における気温と健康影響の関係を解析し、将来気候下における健康影響を評価しました。さらに、気温緩和方策を導入したり東南海地震に対する減災措置を導入したりした場合、住民の健康被害がどのように変化するのか、評価しました。

● 科学研究費補助金・基盤研究(B)「暑熱環境におけるエネルギーの消費による人間健康の改善効果の評価に関する研究」(23360437)(研究代表者: 玄地裕・産業技術総合研究所研究グループ長)

睡眠や疲労の実態調査を実施し、気温が睡眠や疲労に与える影響、さらにエアコンが両者の影響を緩和する効果について評価しました。また、障害調整生命年(DALY)で評価するために必要となる、睡眠や疲労の重篤度を定量化しました。